日本一の山城 ― 大和高取城ハイキングの記録

雲ひとつない秋晴れの空の下、仲間たちとともに「日本一の山城」と呼ばれる大和高取城跡を目指してハイキングを楽しみました。
スタート地点は近鉄壺阪山駅。奈良盆地を見下ろすこの地は、古代から信仰と歴史が息づく町です。

 壺阪寺とお里沢市の物語

 駅を降りてまもなく、目に入るのが壺阪寺(南法華寺)。
西国三十三所第六番札所として知られ、眼病平癒の仏さまとして多くの参拝者が訪れます。
境内では、古浄瑠璃『壺坂霊験記』に登場するお里と沢市の物語が語り継がれています。

 沢市は目の病を患い、盲目となりました。
献身的に夫を支えるお里を疑ってしまった沢市は、悲しみのあまり壺阪の谷に身を投げます。
しかし、お里も夫を追って身を投じ、奇跡的に二人は命を取り戻し、観音の加護により視力も回復したと伝えられています。

 この伝承に触れながら、私たちは“「信じる心と夫婦の絆」”という普遍のテーマを胸に刻みました。歴史の中にある人々の祈りが、今もこの地の空気に溶け込んでいるように感じます。

 天空の城 ― 高取城跡を目指して

 壺阪寺を後にし、いよいよ標高583メートルの高取山頂に築かれた高取城へ。
道中は紅葉が色づき、石畳を踏みしめるたびに、戦国時代の武士たちの足音が聞こえてくるようでした。

 高取城は、戦国期に本多氏や植村氏らによって整備された堅牢な山城で、明治維新の際には取り壊されるまで、その壮麗な石垣が山頂を守り続けました。
現在でも、山の尾根に沿って積まれた巨大な石垣群が残り、その規模は「日本一の山城」と称されるにふさわしい威容です。

 山頂から望む奈良盆地の景色は圧巻で、かつての城主たちもこの眺望を誇りに思ったことでしょう。
私たちはその場でしばし言葉を失い、ただ風と歴史の声に耳を傾けました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


歴史を歩き、心に刻む

 下山の道すがら、古の人々が歩いた道筋を感じながら、壺阪寺とお里沢市の物語、そして高取城の悠久の歴史がひとつに溶け合っていくのを感じました。

 今回のハイキングは、単なる登山ではなく、信仰・愛・歴史が交錯する奈良の物語を体で学ぶ一日となりました。
仲間とともに歩いたこの道は、きっと心の中に長く残ることでしょう。

2025年11月8日  弁護士 川原俊明