一人映画鑑賞 ―心の頂を見つめて―

今日は、生まれて初めて、一人で映画館の扉を開きました。
チケットを手にした瞬間から、どこか胸の奥が震えていました。
誰にも気を遣わず、誰にも語らず、ただ一人、暗闇の中でスクリーンの光に包まれる。
その静寂の中で、私は「映画を見る」という体験の本当の意味を知りました。

これまで、映画好きの妻が家のテレビで夢中になって観る姿を、どこか他人事のように眺めていた私。

「映画に溶け込む」という感覚を、今日初めて、自分の肌で感じました。
――物語の中で、自分の心が静かに溶けていくのです。


吉永小百合さんと、私の人生

私が選んだ作品は、吉永小百合さん主演の
『てっぺんの向こうにあなたがいる。』
日本女性として初めてエベレスト登頂を成し遂げた田部井淳子さんの生涯を描いた映画でした。


「決めたことは、必ずやり遂げる。」
田部井さんの信念に、胸を打たれました。
仲間と支え合いながら資金を集め、困難を越え、山に挑む姿。
そして、登頂後にがんを宣告されても「私は生きる」と宣言したその言葉――
何度も涙がこぼれました。
その姿は、まさに“人生の頂”を見つめ続ける人間の美しさそのものでした。


若き日の私と「小百合さん」

 実は私は、若い頃から大の小百合ファンです。
彼女に少しでも近づきたくて、早稲田大学を目指しました。
在学中、夜間の第二文学部で、同じ授業を受けたこともあります。
教室に現れた彼女は、まるで後光が差しているようでした。


卒業の折には、偶然一緒に撮った写真が、
『女性セブン』『ヤングレディ』『週刊平凡』など多くの雑誌に掲載されました。
貧しい学生だった私は、映画館に行くことすらままならなかったのですが、心の中ではいつも、小百合さんが放つ光を追いかけていたように思います。


いま、再び教えられたこと

今回の映画で再びスクリーンに映る小百合さんは、富士山を登るシーンでも、80歳とは思えぬ健脚で、生命力にあふれていました。
原爆被害者への朗読会を続け、社会と誠実に向き合い続けるその姿――
年齢を超えて人々を照らす「生き方」そのものに、深い敬意を覚えました。


映画館を出る頃、私は心の中で静かに思いました。
「人生とは、自らの頂を信じて歩むこと。」
田部井さんの山、小百合さんの道、そして私自身の道。
それぞれに違っても、志をもって歩めば、いつかその“てっぺんの向こう”に、きっと誰かの笑顔が待っている。

 

すべては、あなたの笑顔のために。

弁護士として、人として、これからも自分の信じる道を登り続けたいと思います。

2025年11月9日   弁護士 川原俊明