鳥羽の地で、歴史を見つめ、未来を拓く —— 伊勢神宮から、ミキモト真珠へ
今回のハイキングは、記念すべき第150回。
いつもの日帰りハイキングから少し趣向を変え、仲間11人で平日の一泊旅行に出かけました。
事務所の皆さんには、その間、大変ご迷惑をおかけしました。
しかし、150回ともなると、単に「歩く」だけではありません。
歩きながら歴史を知り、その土地に生きた人々の思いに触れ、そして、そこから未来を考える。そんな旅になってきたように思います。
今回の舞台は、伊勢から鳥羽へ。
まず向かったのは、伊勢神宮の外宮です。
伊勢神宮には、皇大神宮(内宮)と豊受大神宮(外宮)を中心として長い歴史があります。
なかでも興味深いのが、20年に一度、社殿などを新しく造り替える「式年遷宮」です。
その歴史は古く、天武天皇の発意により制度化され、持統天皇4年、西暦690年に第1回が行われたとされています。
一時中断しながらも、およそ1300年にわたって受け継がれ、2013年には第62回の式年遷宮が行われました。
そして今、2033年の第63回式年遷宮に向けた営みが、すでに始まっています。

今回、古市街道を歩いていると、「お木曳」の幟があちらこちらに立っていました。
お木曳とは、新しい社殿を造営するための御用材を、人々が力を合わせて神宮へ曳き入れる行事です。
内宮では五十鈴川を使った「川曳」、外宮では奉曳車による「陸曳」が行われます。
何百年、何千年と続くものなら、古い建物をそのまま保存するのだろう——普通ならそう考えます。
ところが伊勢神宮は、逆です。
守るために、新しくする。
20年ごとに建物を新しくすることで、宮大工の技術も、祭りの作法も、地域の人々の経験も、次の世代へ受け継いでいく。
「古いものを残す」だけが伝統ではない。
「新しくし続けることによって、変わらないものを守る」という発想です。
これは実に面白い。
古市参宮街道資料館にも立ち寄りました。
かつて全国から「一生に一度はお伊勢参り」と人々が押し寄せた時代、古市は大変な賑わいを見せた街道筋でした。
江戸時代には、庶民が長い道のりを歩いて伊勢を目指しました。
昔の人も、私たちと同じように、道中で笑い、食べ、疲れ、時には道草もしながら歩いたのでしょう。
歴史とは、年号や人物名を覚えることではなく、そこを生きた人間の姿を想像することなのだと思います。
そこから猿田彦神社へ。
「猿田彦」という名前を見て、私は思わず手塚治虫の漫画に登場する「猿田彦」を思い出しました。
猿田彦大神は、神話では天孫降臨の際に道案内をした神様です。
なるほど、「道を拓く」「進むべき方向を示す」という存在です。
弁護士も、少し似ているかもしれません。
依頼者が人生の岐路に立ったとき、「こちらへ進みなさい」と決めつけるのではなく、いくつかの道を示し、その人自身が未来へ進めるようお手伝いする。
それが私たちの仕事ではないかと思いました。

おはらい町、おかげ横丁を歩き、そして内宮へ。
五十鈴川の水は、本当にきれいでした。
川面を見ていると、日々の仕事の雑念まで流れていくようです。
世間の穢れを洗い流して、また明日から頑張ろう。
そんな気持ちになります。
二日目は鳥羽へ移動し、ミキモト真珠島の御木本幸吉記念館を訪ねました。
ここでは、また違った意味で「未来を拓いた人」の歴史に出会いました。
御木本幸吉は、誰も成し遂げていなかった真珠養殖に挑みました。
成功が約束されていたから始めたのではありません。
試行錯誤を繰り返し、自然災害などにも苦しみながら、それでも諦めず、真珠を「偶然に海から採れる宝石」から「人間の知恵によって育てる宝石」へと変えていった。

そこには、時代の少し先を見る力と、失敗してもまた挑戦する執念があります。
伊勢神宮と御木本幸吉。一見すると全く違います。
一方は1300年の伝統。
もう一方は近代日本を代表する革新と起業家精神。
しかし、今回歩いてみて、両者には共通するものがあるように感じました。
それは、
「過去を大切にしながら、未来のために変わる」
ということです。
これは法律事務所にも、そのまま当てはまります。
法律も社会も、人々の生き方も、猛烈な勢いで変化しています。
AIも進化し、これまで弁護士が時間をかけて行ってきた仕事の一部は、機械が瞬時に処理する時代になるでしょう。
だからこそ、法律事務所も変わらなければなりません。
しかし、変えてはいけないものもあります。
依頼者の話をよく聞くこと。
その人が本当に望んでいるものを考えること。
目の前の紛争を解決するだけでなく、その後の人生まで考えること。
そして、困難な状況の中でも、依頼者と一緒に「次の道」を探すこと。
伊勢神宮が20年ごとに新しく生まれ変わりながら1300年の精神を守ってきたように、私たち法律事務所も、守るべきものを守るためにこそ、新しくならなければならないと思います。
そして御木本幸吉のように、「そんなことができるのか」と言われることにも挑戦してみたい。
150回目のハイキング。
伊勢から鳥羽まで、歴史を振り返る旅のはずが、いつの間にか未来を考える旅になっていました。
歴史を学ぶことは、過去へ戻ることではない。
過去から力をもらい、次の時代へ一歩踏み出すことなのだ。
そんなことを考えながら、11人の仲間と歩いた、楽しい一泊二日の旅でした。
さて、151回目は、どんな道を歩き、どんな未来に出会えるでしょうか。
まだまだ、歩き続けたいと思います。
2026.9.10 弁護士 川原俊明



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