選択的夫婦別姓制度の実現を通じて、女性の自由と尊厳を取り戻す

「名前を選ぶ自由が、人生を選ぶ自由になる」
― 選択的夫婦別姓の実現が、女性の未来をひらく ―

はじめに ― なぜ「姓」が問われるのか

日本では、結婚する際に夫婦が「同じ姓を名乗らなければならない」という民法上の規定(民法750条)が存在しています。

世界に目を向ければ、これは極めて異例な制度です。
国連加盟国190以上のうち、日本だけが「法律上、夫婦同姓のみを認める国」となっており、実質的には女性が姓を変えることを強いられる結果となっています。

名前は単なる記号ではありません。
名前は、人生そのものの積み重ねであり、仕事、学び、交友関係、そして社会との接点を築いてきた「私自身」の証明です。

その名前を、結婚を機に一方的に変えさせられる現状に、違和感を覚える人が増えています。
そしてその「違和感」は、制度的な不平等に根差しており、女性の社会的地位や機会に深く関わっているのです。

「制度」がつくる不平等――夫婦同姓の実態

日本では、婚姻届を提出する際に、夫または妻のどちらかの姓を選ばなければなりません。
しかし、現実には約95%以上の夫婦が「夫の姓」に統一されています。

表向きには「どちらの姓でも選べる」とされていますが、社会的・文化的な圧力、職場や親族からの無言の同調圧力により、女性側が改姓することが「当然」とされています。

この結果、女性は仕事の肩書きや実績、研究業績、医師・弁護士・研究者などの専門職としての名前、さらには学会や出版物、資格登録まで、あらゆる面で「不便と喪失」を強いられています。

また、銀行口座、パスポート、マイナンバーカード、各種契約書類など、改姓による膨大な変更手続きも、圧倒的に女性の負担となっています。
これが、「制度がつくる日常的な差別」の最たるものです。

名前の喪失は、人格の分断

名前は、自己同一性(アイデンティティ)の基盤です。
名前を奪われることは、自己の歴史と積み上げてきた価値を手放すことに等しい。

多くの女性たちは、結婚という慶事に際しても、深い葛藤を抱えています。
「私の名前で築いてきた人生を、なぜ捨てなければならないのか?」
「結婚しても、私は私のままでいたい。」

にもかかわらず、現在の制度は、「どちらかが我慢すること」を前提として成り立っており、それがほとんどの場合、女性側に押しつけられているのです。

この制度が問いかけているのは、「家族の絆」ではありません。
それはむしろ、「個人の自由」と「女性の尊厳」を、どこまで認める社会なのか、という問いなのです。

「選択的夫婦別姓」とは何か?

選択的夫婦別姓とは、姓を変えたくない人は変えず、変えたい人は変えるという、きわめてシンプルな制度です。

つまり、「別姓でも同姓でも、夫婦の合意で選べる」仕組みにするということです。
これは、「強制的に夫婦を別姓にする」という制度ではありません。

現行の「同姓に統一」しか認めない制度に、「もう一つの選択肢」を加えるだけです。
この制度が導入されれば、誰かが改姓に苦しむ必要はなくなり、結婚に伴う不安や喪失感も軽減されます。
名前を選ぶ自由は、人生を選ぶ自由に直結するのです。

反対論への答え ― 「家族が壊れる」は本当か?

「夫婦が別の姓では、家族の絆が壊れる」という声があります。

しかしこれは、感情的な先入観に過ぎません。
国際的には、別姓制度を採用している国のほうが多数派であり、そこに「家族崩壊」の兆しはありません。

また、日本でも事実婚を選び、別姓で生活している家族は年々増加しています。
大切なのは、姓の一致ではなく、思いと信頼の一致です。
子どもの姓についても、親の協議で決めることが可能であり、社会的な混乱は起こっていません。

むしろ、「姓の一致」を理由に結婚をあきらめたり、事実婚を選ばざるを得なかったりするカップルが存在することのほうが、深刻な社会的損失です。

女性の活躍の鍵を握る「名前の継続性」

ビジネス、法曹、研究、教育、医療、芸術など、あらゆる専門職において、名前は「信用」「実績」「成果」を証明する重要な資産です。

例えば、弁護士や医師が改姓すれば、旧姓での登録変更や信用の再構築に多大な労力を要します。

論文を発表している研究者にとっては、改姓によって過去の業績が検索しづらくなり、昇進や評価に不利益を被ることもあります。

また、企業においても、「改姓によって過去の社内実績が認識されにくくなった」「顧客からの信用に影響した」といった実例が後を絶ちません。

女性が自分の名前で、堂々と働き続けられること。
それが、本当の意味での女性活躍の推進です。

選択的夫婦別姓は、その基盤を支える制度です。

国際的にみた日本の「後進性」

ジェンダー・ギャップ指数(世界経済フォーラム、2024年)で、日本は146か国中118位。
特に「政治」「経済」の分野で著しく低いスコアを示しています。
一因として、「制度によって女性のキャリア形成が阻まれていること」が指摘されています。
夫婦同姓制度は、その典型的な障害です。

国際社会の中で、なぜ日本だけが「姓の選択権」という基本的自由を認めないのか。
この制度を放置することは、法の名のもとに、女性の人生を不自由にし続ける「構造的な差別」であり、もはや黙認することはできません。

法律家としての使命 ― 「正義」は制度を変えることから始まる

私たち法律家は、社会の声なき声に耳を傾ける義務があります。
制度の運用者であるだけでなく、制度の変革者であるべきです。

選択的夫婦別姓の実現は、単なる「家族法」の改正にとどまりません。
それは、自由な人生の選択と、対等な人間関係を法のもとで保障する、現代社会の礎です。
法律は社会を守るためにあります。

しかし、時代遅れの法律は、社会を縛り、成長を阻みます。
だからこそ、制度の「不合理」を見過ごさず、理不尽を変えるために声を上げる――それが、法曹の責務です。

おわりに ― 「名前」を奪わない社会へ

結婚しても、名前を変えなくていい。
子どもがいても、両親が別の姓を名乗っていても、家族は家族。
そんな「当たり前の社会」が、なぜ日本では、いまだに実現していないのでしょうか。

すべての人に、名前を選ぶ自由があり、信念に従って人生を築く自由がある社会へ。
その実現の一歩が、選択的夫婦別姓制度の導入です。

姓を変えたくない人が、変えずにすむ日本へ。
そのために、私たち法律家は、声をあげ、制度を動かし、未来を変えていきます。

❖ あなたの声が、社会を変えます。

この文章に共感いただけた方へ。
ご家族、ご友人、そして社会へ、ぜひこの想いを伝えてください。

選択的夫婦別姓は、女性のためだけでなく、すべての人の自由を守る制度です。

2025年7月13日 弁護士川原俊明