「担保」の常識が変わる——企業そのものの価値が未来を創る時代へ

弁護士法人川原総合法律事務所
弁護士川原俊明 

 「担保」と聞くと、多くの方は土地や建物、預金といった目に見える財産を思い浮かべるでしょう。

  実際、日本の金融は長年、「土地があるか」「建物があるか」「経営者が個人保証をするか」という考え方を中心に発展してきました。

 そのため、優れた技術や高い成長性を持ちながら、不動産を十分に保有していない中小企業やスタートアップ企業は、資金調達に苦労する場面も少なくありませんでした。

 しかし、令和6年に成立した「事業性融資の推進等に関する法律」により、日本の金融の考え方は大きな転換点を迎えました。

 この法律によって創設された「企業価値担保権」は、従来の「物を担保にする」という発想から、「企業そのものの価値を担保として評価する」という、新しい時代の制度です。

 この新しい考え方を、学問の世界だけにとどめることなく、実際の社会や企業経営へ広げようと積極的に発信されているのが、追手門学院大学・前経営学部長の水野浩児教授です。

 金融庁とも連携しながら、「企業価値」という新たな評価軸を社会へ定着させようとされている取り組みは、大学の研究が社会実装へと発展する好例といえるでしょう。

 「企業価値」とは何を意味するのでしょうか。

 それは、単なる会社の資産額ではありません。

 例えば、
・長年築き上げた顧客との信頼関係
・熟練した社員の技術力
・独自のノウハウ
・ブランド力
・地域社会からの信用
・将来生み出される利益

 これらすべてが企業価値を構成します。

  つまり、企業とは「建物」ではなく、「人・技術・信用・未来」を含めた総合的な存在なのです。

  これまで金融機関は、土地や建物を中心に担保評価を行うことが一般的でした。
  しかし、現代社会では、不動産を多く所有していなくても、世界で活躍する企業は数多く存在します。

  AI企業、ソフトウェア企業、医療・介護事業、デザイン会社、専門サービス業などは、その代表例でしょう。
 こうした企業を支えている本当の財産は、「人」と「知識」と「信用」です。

 企業価値担保権は、まさにそこへ光を当てた制度なのです。


 社会全体に与える大きな影響

 この制度が広く活用されれば、金融機関の役割も変わります。

  これまでは、
 「担保はありますか。」
 という質問が中心でした。

 これからは、
「どのような技術がありますか。」
「どのような将来性がありますか。」
「どのような経営理念で社会へ貢献しますか。」
 という視点が、より重要になっていきます。

 金融機関は、企業の将来性を見極め、企業とともに成長を支える「伴走者」としての役割を担うことが期待されています。
 これは、地域経済にとっても極めて大きな意味を持ちます。

 優れた技術を持つ中小企業が資金調達しやすくなれば、新たな設備投資や研究開発、人材育成が進みます。
 その結果、新しい雇用が生まれ、地域経済が活性化し、日本全体の競争力向上にもつながるでしょう。


法律は社会を変えるために存在する

 法律というと、「紛争が起きてから利用するもの」という印象を持たれる方も少なくありません。
 しかし、本来、法律は社会の未来をより良くするために制定されるものです。
 企業価値担保権も、その典型例といえるでしょう。

 企業を「現在ある財産」で評価するのではなく、「未来に生み出す価値」で評価する。
 これは、法律が経済の発展を後押しする新しい挑戦でもあります。

 私たち法律実務家も、この制度を単なる法律知識として理解するだけでは十分ではありません。

 企業が持つ本当の価値を正しく理解し、その価値を金融・契約・事業承継・M&A・企業再生など様々な場面で最大限活かすことこそ、これからの弁護士に求められる役割であると考えています。

  企業の価値は、決して決算書だけでは測れません。
 社員の情熱、技術への誇り、お客様から寄せられる信頼、そして未来への挑戦――。
 それらすべてが企業の財産であり、社会を支える力です。 

「目に見える財産」から「未来を生み出す価値」へ。

 企業価値担保権は、その新しい時代の扉を開く制度です。

 私たち弁護士法人川原総合法律事務所も、この新しい法制度を積極的に研究し、企業の皆様が持つ本当の価値を法的な側面から支え、地域経済の発展と持続可能な社会の実現に貢献してまいります。