弁護士法人の“夜の万博”訪問記

―― 心と心をつなぐ、初夏のひととき ――

2025年5月22日、木曜日。
夕方の風が心地よく頬を撫でるころ、私たち法律事務所のメンバーは、それぞれの業務を少し早めに切り上げて、
大阪・夢洲で開催中の「2025年日本国際博覧会」、通称「大阪・関西万博」へと足を運びました。

ふだんは机に向かい、法律と向き合い、依頼者の人生の節目や課題に寄り添ってきた私たちですが、
この日は少し趣向を変えて、所員全員での研修会を兼ねた「夜の万博」見学となりました。

目的は、日ごろの労をねぎらうと同時に、職員間の親睦とチームとしての連携を深めることです。
その先にある「依頼者ファースト」の実現を、私たちは“楽しみながら”追い求めました。

入場ゲートをくぐると、そこは未来都市でした。

会場に足を踏み入れた瞬間、まず感じたのはその広さと、会場全体に満ちている不思議な空気感でした。
ただのイベント空間ではありません。世界中の英知が交差し、文化が響き合い、未来が視覚化されたような重厚さと期待感がそこにはありました。

入場してすぐ目に飛び込んできたのは、巨大な木造建築「大屋根リング」です。
この建築物は、純粋な木造とは思えないほど堅牢で、デザイン性も兼ね備えた、世界最大級の木造構造とのことです。

見上げると、夕陽の光が木の梁の隙間から差し込み、美しい光と影を描いていました。
「夜になると、もっときれいですよ」と教えてくれたスタッフの言葉どおり、日が暮れてからは、
リングがまるで星の王冠のように輝き始め、幻想的な光景が広がっていました。


最初に訪れたのは――「ウクライナ館」

最初に足を運んだのは「ウクライナ館」でした。
ロシアからの侵略が始まって、すでに3年が経とうとしています。
この小さなパビリオンは、国際社会が心を寄せている証として、静かに強くメッセージを発信していました。

建物自体は控えめで派手さはありませんが、足を踏み入れた瞬間、胸が締めつけられるような、重くも温かい空気が漂っていました。
展示されていたのは、子どもたちの描いた未来の風景や、廃墟となった街の写真、復興へ向かう人々の姿などです。

特に印象に残ったのは、黄色と青で彩られた壁。ウクライナ国旗の色です。
その壁は、まるで「希望」の象徴のように、心に深く残りました。

展示の一節にあった、「平和は、ただの願いではなく、人の行動によって築かれるものだ」という言葉には、
法律家としての自分の在り方を改めて見つめなおすきっかけをもらいました。


招待された「ブラジル館」――友情と誇りの時間

次に向かったのは「ブラジル館」でした。
館の職員の方のご厚意で、私たちは優先的に入場させていただくことができました。

館内に足を踏み入れると、まさに太陽と情熱が混じり合ったようなエネルギーに包まれました。
壁には、かつてブラジルに渡った日本人移民たちの写真が並び、彼らが新天地でどれほどの努力を重ねたのかが伝わってきます。

開拓の苦労、家族への想い、地域に根ざして生きてきた日本人移民の歴史は、静かに、しかし強い誇りをもって語られていました。
現在のブラジルは、エネルギー、農業、デジタル産業など、さまざまな分野でめざましい発展を遂げており、未来への希望がそこかしこに感じられました。

館を出るときには、カラフルなポンチョを全員がプレゼントされ、みんなで記念写真を撮りました。
その笑顔には、世界とのつながりと、歴史の重みを体感した充実感がにじんでいたように思います。


テックワールド(台湾館)――知と美の融合

その後、私たちは「テックワールド」――実質的には台湾館――へと向かいました。
万博屈指の人気館であり、入場は抽選制という狭き門です。

しかし、ここでも事務局の懸命な努力のおかげで、メンバー全員がチケットを確保することができました。
「さすがは事務局!」と、皆で拍手が沸き起こりました。

館内に入ると、そこはまるで未来都市の心臓部のようでした。
巨大な360度LEDパネルが壁一面を取り囲み、そこには半導体の進化や、AI技術の最前線、未来社会のビジョンが鮮やかに描かれていました。

特に驚いたのは、美しい胡蝶蘭の展示でした。
その花びらには、最先端技術で繊細な蝶の模様が印刷されており、まさに「胡蝶蘭に胡蝶が宿る」ような芸術的表現でした。

胡蝶蘭の世界流通量の30%が台湾から出荷されているという事実も、初めて知ることができました。
まさに「知」と「美」の融合空間であり、私にとって万博で一番印象に残ったパビリオンでした。

館を出るとき、私はそっと心の中で祈りました。
台湾と中国本土との間に、いつの日か平和と協調が根付くようにと。


夜景と共に――大屋根リングでの語らい

最後に私たちは、再び大屋根リングの下に戻りました。
広場の一角に腰を下ろし、軽食を取りながら、それぞれの感想を語り合いました。

「やっぱり台湾館、すごかったね」
「私はウクライナ館が一番印象的だった」
「ブラジル館のポンチョ、家に飾ろうかな」

普段の業務ではなかなか交わすことのない会話に、笑いが生まれ、心の距離が自然と縮まりました。
そこにあったのは、肩書を超えた人と人との温かいつながりでした。


最後に

今回の万博訪問は、単なる研修や慰労の時間ではありませんでした。
それは「世界と対話し、自分たちの在り方を問い直す」大切な時間でした。

依頼者ファーストとは、書類の正確さや裁判の結果だけではなく、
目の前の依頼者と、その背景にある人生や想いに、どれだけ心を寄せられるか。
その姿勢を、もう一度確かめることができたひとときでした。

そして何より――
「また行きたい」
そう素直に思える体験が、ここにはありました。