減塩が身体をスマートにする?—早朝バスの会話から考えた、塩と身体の不思議—

毎朝、同じ早朝のバスに乗り込むご近所さんとの会話は、思いがけず、人生のヒントをくれることがあります。
先日、その方から、こんな話を聞きました。 

「減塩すると、身体がスマートになるらしいですよ。」

一瞬、なるほど、と思いました。
ただ、同時に、少し疑問も湧きました。
塩でなく、砂糖を控えることではないの?

減塩で本当に痩せるのでしょうか。
塩を控えるだけで、身体が引き締まるのでしょうか。
それとも、単なる健康情報の一つに過ぎないのでしょうか。

結論からいえば、減塩そのものが脂肪を直接燃やすわけではありません。
しかし、減塩によって、身体が「すっきり見える」「むくみが取れる」「血圧が安定する」
「食生活全体が整う」という意味では、たしかに、身体をスマートにする方向に働く可能性があります。

塩分を摂りすぎると、身体は水をためこむ

食塩の主成分は、ナトリウムです。
ナトリウムは、体内の水分量や血圧、神経や筋肉の働きに関係する大切なミネラルです。
ですから、塩は悪者そのものではありません。

 問題は、摂りすぎです。

塩分を多く摂ると、血液中のナトリウム濃度が高くなります。
すると身体は、その濃度を薄めようとして、水分をためこみます。
これが、いわゆる「むくみ」の一因です。

 前日の夜に、ラーメンのスープを飲み干したり、濃い味の外食をしたり、漬物や加工食品を多く食べたりすると、翌朝、顔が重い、指輪がきつい、靴下の跡が残る、体重が一時的に増えている、ということがあります。

これは脂肪が急に増えたわけではありません。
身体が水分を抱え込んでいる状態です。 

その意味で、減塩をすると、余分な水分が抜け、顔や身体がすっきり見えることがあります。
これが、「減塩でスマートになった」と感じる一つの理由です。

 減塩は「体重減少」より「体調改善」に効く

 ただし、ここは誤解してはいけません。

減塩だけで、内臓脂肪や皮下脂肪がどんどん減るわけではありません。
脂肪を減らすには、やはり摂取カロリー、運動量、筋肉量、睡眠、飲酒習慣などが関係します。 

それでも、減塩には大きな意味があります。 

第一に、血圧への影響です。
食塩の摂りすぎは高血圧の重要な要因とされています。
厚生労働省のe-ヘルスネットでも、食塩の摂りすぎは高血圧や循環器疾患のリスクを高め、胃がんのリスクを高めることも報告されていると説明されています。

第二に、日本人はもともと塩分を摂りやすい食生活をしています。
味噌汁、漬物、干物、麺類のスープ、醤油、ソース、佃煮、加工食品。
どれも日本の食卓に馴染み深いものですが、積み重なると塩分量はかなり多くなります。

厚生労働省の令和6年「国民健康・栄養調査」では、食塩摂取量の平均は9.6gで、健康日本21の目標値である7gより依然として高い状況とされています。

日本人の食事摂取基準2025年版では、成人の食塩摂取量の目標は、男性7.5g未満、女性6.5g未満とされています。
また、高血圧や慢性腎臓病の重症化予防では、男女とも6.0g未満が目安とされています。

さらに、日本高血圧学会は、高血圧治療における減塩目標として、1日6g未満を推奨しています。
WHOも、成人の食塩摂取量について、1日5g未満を推奨しています。 

つまり、私たちは「少し控えているつもり」でも、実際にはまだ塩分を摂りすぎている可能性が高いのです。 

減塩の効用——血管を守り、腎臓を守る 

減塩の最大の効用は、見た目以上に、身体の内部にあります。 

血圧が高い状態が続くと、血管には常に強い圧力がかかります。
その結果、脳卒中、心筋梗塞、心不全、腎臓病などのリスクが高まります。

血管は、毎日黙って働いてくれています。
自覚症状がないからこそ、怖いのです。

高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれることがあります。
痛くもかゆくもないうちに、血管や臓器に負担が積み重なっていくからです。

減塩は、この負担を軽くする生活習慣の一つです。

また、腎臓にも関係します。
腎臓は、体内の水分や塩分を調整する重要な臓器です。
塩分を多く摂り続けると、腎臓は余分なナトリウムを排出するために働き続けることになります。

若いころは無理がきいても、年齢を重ねるにつれて、腎臓の機能は少しずつ低下します。
減塩は、腎臓を長持ちさせる意味でも大切です。

減塩の「功」

減塩の功績を整理すると、次のようになります。

まず、血圧の上昇を抑えやすくなります。
高血圧の人にとってはもちろん、現在は正常血圧の人にとっても、将来の高血圧予防につながります。

次に、むくみが軽くなることがあります。
顔、手足、まぶた、足首などがすっきりし、見た目にも軽やかに感じることがあります。 

さらに、味覚が変わります。
濃い味に慣れていた舌が、少しずつ素材本来の味を感じるようになります。
最初は物足りなくても、慣れてくると、薄味でも十分においしいと感じるようになります。

そして、食生活全体が整います。
減塩を意識すると、自然と加工食品、外食、インスタント食品、麺類のスープ、濃い味のおかずに注意が向きます。
その結果、野菜、果物、魚、豆類、海藻などを取り入れるきっかけにもなります。

 つまり減塩は、単に「塩を減らす」だけではなく、生活全体を見直す入口になるのです。

 減塩の「罪」——やりすぎにも注意

 一方で、減塩にも注意点があります。

まず、極端な減塩は危険です。
ナトリウムは身体に必要な成分です。
汗を大量にかく人、激しい運動をする人、屋外で働く人、夏場に長時間活動する人などは、塩分が不足すると、体調を崩すことがあります。

特に、高齢者の場合、食欲が落ちているところに極端な減塩をすると、食事そのものが進まなくなることがあります。
健康のために始めた減塩が、栄養不足につながっては本末転倒です。 

また、利尿薬などの薬を服用している人、腎臓病、心不全、肝疾患などの持病がある人は、塩分や水分の制限について、必ず主治医の指示に従うべきです。 

最近は、カリウムを含む「減塩塩」もあります。
これは一部の人には有用ですが、腎機能が低下している人では、高カリウム血症の危険があります。厚生労働省の食事摂取基準でも、カリウムについて、特に高齢者では腎機能障害や糖尿病に伴う高カリウム血症に注意が必要とされています。

したがって、減塩は大切ですが、「塩をゼロに近づける競争」ではありません。

 まずは、できることから

 減塩は、難しく考える必要はありません。

 ラーメンやうどんのスープを全部飲まない。
醤油やソースは「かける」より「つける」。
お味噌汁は具だくさんにして、お汁の量を減らす。
漬物や佃煮を毎食ではなく、少量にする。
加工食品や弁当の表示を見て、食塩相当量を確認する。
だし、酢、レモン、香辛料、薬味を上手に使う。

こうした小さな工夫で、日々の塩分量はかなり変わります。
厚生労働省も、かけ醤油をつけ醤油に変えること、漬物やお味噌汁の量を減らすこと、麺類のスープを飲み干さないことなどを減塩の工夫として紹介しています。

減塩は、身体への礼儀である

減塩が身体をスマートにする。
この言葉は、半分は正しく、半分は説明が必要です。

 減塩は、脂肪を直接燃やす魔法ではありません。
けれども、むくみを減らし、血圧を整え、血管や腎臓への負担を軽くし、食生活を見直すきっかけになります。

そう考えると、減塩は、単なるダイエット法ではなく、身体に対する一つの礼儀なのかもしれません。

毎朝、同じバスに乗る。
同じ道を通る。
同じように一日が始まる。

けれども、そこで交わされる何気ない会話の中に、健康への小さな気づきがある。

「減塩が、身体をスマートにする?」

 その答えは、こう言えそうです。

減塩は、身体を軽く見せるだけでなく、血管と内臓を静かに守る。
だから、無理なく、賢く続ける減塩は、たしかに身体をスマートにする。

塩を敵にする必要はありません。
ただ、塩と上手につき合うこと。

 それが、年齢を重ねても、すっきりと、しなやかに生きるための、小さくて大きな生活習慣なのだと思います。

2026.5.27  弁護士 川原俊明