「ジェンダー後進国」日本への警鐘 ―法と教育で未来を変えるために―
今、私たちが立っているこの国、日本。世界の先進国を自認し、経済力や技術力では高い評価を受ける一方で、国際社会から「ジェンダー後進国」として冷ややかな視線を浴びています。
2024年の世界経済フォーラム(WEF)の「ジェンダーギャップ指数」において、日本はなんと146か国中118位という低迷した順位に甘んじています。
これは、アイスランド、フィンランド、ノルウェーなどの北欧諸国が常にトップを占めている状況と対照的です。
中でも深刻なのは、政治と経済の分野における女性の活躍の場が著しく限られている点です。そして、この政治経済分野の構造的な遅れは、やがて社会全体、そして法律制度にまで深く影を落としています。
なぜ、日本はここまでジェンダー平等において立ち遅れているのでしょうか。
背景にあるのは、政治家たちの頭の硬さ、すなわち時代に合わない保守的な政治感覚に他なりません。
さらに、SNSなどインターネット上では、いまだに女性の社会進出や多様性を否定する過度に偏見に満ちたメッセージが溢れ、それらが政治家や政策決定層の判断にも少なからぬ影響を与えていることは否定できません。
ですが、私たちは忘れてはなりません。
「法律は、社会を変える力がある」という事実を。
過去、女性に参政権がなかった時代も、労働の場から排除されていた時代も、法改正がなされたことで時代は動きました。
同様に、いま新しい社会をつくるためには、新しい時代感覚に基づいた法律の制定が不可欠なのです。
では、具体的に何が必要なのでしょうか。
第一に、皇室典範の改正です。
現在の皇室制度は、女系天皇の誕生を認めていません。
しかし、社会全体が男女平等を目指しているにもかかわらず、象徴たる皇室が男系男子に限定されているという事実は、日本という国家の価値観そのものを問われる問題です。
このままでは、若い世代にとって皇室は「過去の遺物」となり、国民との心の距離がますます広がっていくことでしょう。
女系天皇の容認は、単なる制度の問題ではなく、日本社会が本当にジェンダー平等を実現する気があるのかという国民的意思の表れでもあります。
第二に、民法の改正による夫婦別姓の容認です。
結婚した男女が、同姓を強制される国は、もはや先進国の中で日本だけです。
個人のアイデンティティの尊重、多様な生き方の選択を推進するためには、夫婦別姓の導入は避けて通れません。
この問題は、単なる表層的な制度改革ではなく、「個」を尊重する社会の実現のための土台なのです。
しかも現行制度は、女性側が姓を変えるケースが96%以上という現実があり、「自由な選択」の名のもとに、不均衡な圧力が存在しているとしか言いようがありません。
第三に、会社や法人組織などの社会の意思決定機関において、女性登用を進めることです。
管理職や役員に占める女性の割合は、北欧諸国ではすでに40〜50%台に達しています。
一方、日本では上場企業における女性役員の割合は、わずか10%を下回る水準にとどまっています。
「女性には責任ある立場は任せられない」などという前時代的な偏見が、未だに企業文化の奥深くに根付いていることは、私たちの社会の恥と言っても過言ではありません。
女性が社会で活躍できるようになるには、まず教育の場から変えなければなりません。
男社会を前提とした教育方針、進路指導、無意識の偏見を排除するために、学校教育には根本的な変革が必要です。
小学校から高校、大学に至るまで、性別によって将来の職業選択や人生設計に差を生じさせるような構造は、徹底的に見直すべきです。
今の日本社会に必要なのは、未来を見据えた政治感覚です。
経済効率だけを追い求めるのではなく、どのような社会を次世代に残すのか、どのような価値観を継承するのか。
それを真剣に考え抜くことが、政治家に最も求められているはずです。
特に、法律の分野に携わる者には、「現実を追認するための法律」ではなく、「未来を切り拓くための法律」を創る使命があります。
法の世界に生きる私たちが、声を上げ、行動し、社会の感性を呼び覚ますことが、ジェンダー平等を真に実現する力になるのです。
日本という国は、変わることができます。
かつて、女性に参政権がなかった時代がありました。
女性が働くことすら難しい時代がありました。
それでも、変えてきたのです。
ならば、今も変えられるはずです。
皇室典範の改正、夫婦別姓の容認、企業組織における女性登用の義務化、教育制度の抜本的見直し。
これらを同時に進めることで、「男社会」を超えた、未来を担う「共生社会」へと、日本は一歩踏み出すことができるのです。
私たちは、いまこそ立ち上がらなければなりません。
この国の未来を、ジェンダー平等という名のもとに、真に豊かで、公正なものとするために。
それは、私たち自身のためでもあり、次の世代の子どもたちのためでもあります。
法を、社会を、そして人々の意識を変える力は、私たち一人ひとりの手の中にあります。
2025年6月13日 弁護士 川原俊明