「登記できない」とされた自筆証書遺言から、相続登記を実現!
相続弁護士 川原俊明
「遺言書があるのに、登記できない」
自筆証書遺言は、遺言者が自ら作成することのできる、比較的利用しやすい遺言方式です。
しかし、その手軽さの裏側には、思わぬ落とし穴があります。
その一つが、「遺言書に書かれた財産を、本当に特定できるのか」という問題です。
今回、当事務所が取り扱った相続案件でも、まさにこの問題が発生しました。
遺言者は、自ら所有する土地と、その土地上に建つ「共同住宅」を、特定の相続人に相続させる旨の自筆証書遺言を残していました。
ところが、土地については所在地等が記載されているものの、建物である共同住宅については、所在地や家屋番号など、登記簿上の建物を直接特定できる記載がありませんでした。
現地を見れば、土地の上にその共同住宅が建っていることは明らかです。
航空写真を見ても、その位置関係は一目瞭然でした。
しかし、登記はそれだけではできません。
法務局から示された「登記できない」との見解
この案件について、当初相談を受けた司法書士が法務局に事前相談したところ、
「この遺言書の記載だけでは建物を特定できず、相続登記は困難である」
との見解が示されたそうです。
これは相続人にとって重大な問題です。
せっかく被相続人が、
「この共同住宅を、この相続人に引き継がせたい」
という意思を遺言書に残したにもかかわらず、その意思を登記に反映できない。
そうなると、その建物については、改めて相続人全員による遺産分割協議を行わなければならなくなる可能性があります。
相続人間で意見が一致しなければ、遺産分割調停、さらには審判へと発展することもあり得ます。
遺言書があるにもかかわらず、遺言者が望んだ相続を実現できない。
これこそ、自筆証書遺言に潜む怖さの一つです。
それでも、「登記できない」で終わらせない
しかし、当事務所はここで諦めませんでした。
問題は、
「共同住宅」という言葉だけでは、どの建物なのか分からない
という点にあります。
それならば、遺言書そのものだけではなく、遺言者が所有していた財産や、その取得経緯などの客観的資料を積み重ねることによって、「共同住宅」がどの建物を指しているのかを明らかにできないか。
そこから調査を始めました。
まず、被相続人名義の不動産について調査し、問題となっている共同住宅以外に、遺言書の「共同住宅」という記載に該当し得る建物が存在するのかを確認しました。
さらに重要だったのが、被相続人がその共同住宅をどのように取得したのかという、所有権取得の経緯でした。
調査を進めたところ、この共同住宅は、被相続人が先代から相続によって取得したものであることが判明しました。
そこで、さらに過去の相続関係資料まで遡りました。
すると、先代の相続時に作成された遺産分割協議書に、問題となっている共同住宅の所在地等が明確に記載されていたのです。
これは非常に重要な資料でした。
現在の自筆証書遺言だけを見れば「共同住宅」がどの建物なのか十分明確ではない。
しかし、
現在の登記記録、被相続人の所有不動産、土地と建物の位置関係、航空写真、過去の相続関係、そして先代の遺産分割協議書。
これらを一本の線としてつなげていけば、遺言書に記載された「共同住宅」がどの建物を意味するのかを、客観的資料によって説明できるのではないか。
当事務所は、そのように考えました。
法務局に再度事前相談――そして判断が変わった
そこで、収集した資料を整理したうえで、改めて法務局に事前相談を行いました。
法務局でも慎重な検討が行われました。
登記は、不動産という重要な財産について、誰が権利者であるのかを公示する制度です。
したがって、「おそらくこの建物だろう」という程度で登記を認めることができないのは当然です。
だからこそ、私たちも、単に
「土地の上にこの建物しかないのだから認めてほしい」
と主張したのではありません。
遺言書の記載と客観的資料を結びつけ、遺言者が「共同住宅」という言葉によって指し示した建物を合理的に特定できることを、資料によって積み上げました。
その結果――
法務局から、相続登記を受け付けることができるとの判断を得ることができました。
一度は「登記できない」とされた案件について、結論を覆すことができたのです。
遺言者の「最後の意思」を、現実の権利に変える
今回の案件で改めて感じたのは、遺言書は、ただ存在すればよいというものではない、ということです。
遺言者が亡くなった後、その文章を読み、財産を特定し、登記や預貯金の承継など、現実の権利関係に結びつけることができて初めて、遺言者の意思は実現します。
特に自筆証書遺言では、法律や登記実務を知らない方が自ら文章を作成するため、財産の特定が十分でないことがあります。
しかし、記載が不十分だからといって、直ちに「できない」と諦めるべきではありません。
遺言書だけでは足りないのであれば、過去の登記資料、相続関係資料、契約書、固定資産関係資料その他の客観的資料を徹底的に調査する。
そして、それらを組み合わせて、亡くなった方が本当に何を望んでいたのかを、第三者にも分かる形で明らかにする。
そこに、法律家の知恵と役割があります。
今回、私たちは、「登記できない」とされた自筆証書遺言を、そのまま眠らせることなく、現実の相続登記へとつなげることができました。
一枚の遺言書に込められた故人の意思を、法律上の権利として実現する。
「できない」で終わらせず、「どうすれば実現できるか」を考え抜く。
それが、私たち川原総合法律事務所が、相続案件において大切にしている姿勢です。

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